分析化学誌の特集論文「拡がる!分析化学と溶液化学の境界」に、総合論文が掲載されました。
溶液内の分子間相互作用に関するこれまでの研究成果を、体系的に整理しました。
フラグメント理論に基づく物理化学的な分析の観点から、機能溶液の構造や物性の理解に向けた総説です。
BUNSEKI KAGAKU
フラグメント理論に基づく溶液内分子間相互作用の第一原理的評価
黒木 菜保子*
BUNSEKI KAGAKU 74, 9, 513–522 (2025.9.5).
DOI: 10.2116/bunsekikagaku.74.513
溶液中で形成される分子間相互作用ネットワークは,化学反応の進行や物性の発現を支配している.ゆらぎを伴った相互作用ネットワークの構造を定量的に理解することは,新たな溶液の設計や機能の予測において重要な鍵となる.本研究では,量子化学に根差したフラグメント理論に基づき,溶液内の相互作用を高速かつ高精度に評価するいくつかの手法を提案した.イオン液体や超臨界流体,オスモライト水溶液を対象として,溶液を構成する分子の幾何的特徴・電子的特徴から,溶液の構造や熱力学・動力学に関する物性を評価した.提案手法は,いずれも経験的パラメーターに依存しないため,未知の化学現象の予測にも適用可能な汎用性を有する.機能溶液物理化学の深化に向けた,新たなアプローチを提供する.